【高校ダイアリー リレー小説】図書室の君と・・・(第2話) |ブログ|岐阜新聞社営業局

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【高校ダイアリー リレー小説】図書室の君と・・・(第2話)

【高校ダイアリー リレー小説】図書室の君と・・・(第2話)

※高校ダイアリー2023夏号にて掲載したリレー小説を再掲載いたします。
第1話

図書室の君と…

第2話
作:ぴょる(山県高校 文芸部 2年) 

違う。きっと女子と話すことが少ないから緊張しているだけだ。俺が桃園のことを好きなわけない。好きになったところで到底、届くはずがない。所謂、陰キャに分類される俺がマドンナの桃園と釣り合うわけがない。って何こんなに必死に言い訳を考えているのだろうか。

「ねぇ。ちゃんと聞いてる?」

俺の顔を覗き込み少し怒ったような顔で声をかけてきた桃園を、不覚にも「可愛い」と思ってしまった。が、そんな気持ちを隠すように今できる精一杯の返事をした。

「あ、うん。ごめん。聞いてたよ。」

何をそんなに焦っているのかと言わんばかりの表情で笑う桃園にまた鼓動が高鳴るのを感じた。頬を赤くしながらも、今は一旦勉強に目を向けることにした。なのに、

「隣、いいかな?」

と、後ろから声がした。少し気になって振り向くと、同じクラスの神宮寺フィンがいた。サッカー部で女子から人気があり、成績も底辺の俺とは大違いのやつだ。

誰に声をかけているのかなんて一目瞭然だった。近くには俺と桃園と図書委員しかいなかったのだから、神宮寺が入ってきて声をかける人はどう考えても一人しかいない。どうせ桃園は笑顔で「いいよ」なんて言ってしまうのだろうなと考えていたが、やはり桃園は笑顔で了解した。気に食わない。聞きたいことがあるのに、こいつのせいで聞けない。焦りを感じている俺を嘲笑っているかのような視線を感じた。その犯人は神宮寺だと一瞬でわかった。神宮寺の方を見ると「どんまい」と、口パクで伝えてきていた。ムカつく。俺はイライラを抑えるために二人のことは気にせず課題に取り組むことにした。

「そろそろ閉館なので……」

図書委員の人が声をかけに来た。時計を見るともう十八時を回っている。

「遅くまでごめん。」

神宮寺のせいで二人だけの時間はほとんど奪われてしまったが、かれこれ二時間も桃園に付き合ってもらっていたので申し訳なさで謝った。長い時間付き合ってもらったのに、やっぱり返ってくる言葉は優しすぎる。

「大丈夫だよ。またいつでも声掛けて」

と、微笑んだ桃園にまた頬を赤くしてしまった。

図書室を出てから下駄箱まで向かう間は神宮寺も当然のようについてきて、三人で歩く羽目になってしまった。だが、俺と桃園はバス通学で神宮寺は自転車通学だ。駐輪場とバス停は反対方向にあるから玄関からは桃園と二人きりになることが出来た。でも、特に話すことが浮かばない。緊張が勝ってしまう。話すことが全くなくて気まずかったのだが、家の方向が反対なようで彼女は俺が乗るバスより二分早く来るバスに乗り込んだ。

「また明日!」

と、笑顔で手を振ってバスの乗り込んだ彼女を「可愛いな」なんてまた思ってしまった。

 

 俺が乗るバスが来るまでの二分間、ただずっと桃園のことしか考えられなかった。学校のマドンナである彼女が、一体何故俺の隣の席に座ったのか。明日誘ったらまた一緒に勉強してくれるだろうか。たったの二時間勉強に付き合ってもらっただけで、しかも、神宮寺に邪魔されて世間話など一切していないのに、どうしてここまで気になってしまっているのか。たいして関わりもないのに何故ここまで考えてしまうのか。一体俺にとって桃園はどんな存在なのか。神宮寺に対してここまでムカつく理由はなんなのか。この気持ちはなんなのか。

そんなことを考えていると、あっという間に二分経ちバスが来た。

「とりあえず帰ったらすぐご飯食べて寝よう」

モヤモヤした気持ちを落ち着かせるために、俺はイヤホンをつけてバスに乗り込んだ。