【高校ダイアリー リレー小説】Mission In Possible(第2話) |ブログ|岐阜新聞社営業局

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【高校ダイアリー リレー小説】Mission In Possible(第2話)

【高校ダイアリー リレー小説】Mission In Possible(第2話)

※高校ダイアリー2022秋号にて掲載した小説を再掲載いたします。第1話はコチラ

Mission In Possible 

第2話
作:千田真琴(坂下高校 文芸部2年)

補習当日。決戦は今日だ。

漢らしく堂々とするんだ。変な風に考えるから駄目なんだ。自分はもう、友人も家族も頼らない――そう意気込んで、下駄箱から靴を出し、正門へ向かう準備をした。
堂々と生きることにした良助が選んだ行動、それは、その身一つでただ正門から出ていくことだった。いざ、下校だ!
正門目がけて、真正面から走っていく。そしてそのままの勢いで、良助の身体が正門を出た。

「俺はやったよ……一人で成し遂げたんだ……!」

思わず立ち止まり、天を仰いで心の底から喜びを噛み締める。その時だった。

「おーい良助、探したぞ」

背後から聞こえた声に、自分の顔から笑顔がなくなったのが分かる。
この声は今、一番会いたくない人の声だ。ぎぎぎ、と首を後ろに向けた。

「あ、あぁー先生どうしたんですかこんなところにまで来て。お仕事の方は大丈夫ですか?」

ちくしょう、理由なんて分かってるんだよ!でも、もしかしたら別の可能性があるかもしれない。わずかな望みをかけて、言葉を絞り出す。

「いやお前、下駄箱にカバン置いてったぞ」

慌てて自分の両手を見ると、確かにそこには何もなかった。文字通りの、身一つ。
やった! じゃあ補習のことでここまで来たわけじゃ……!

「そういえばお前、今日補習じゃなかったか? ついでだ、このまま一緒に行くか」

オワッタ~。

 

そして良助は今、先生と一緒に校内を歩いている。周りからは勉強の相談だとか、部の活動について話をしているように見えるんだろうか。
にこやかに語りかけてくる先生に、こちらも引きつった笑顔で応じる。
その心の中で、良助はさっきの自分のことを恨んでいた。あの時、喜びを噛み締める暇があるんだったら、さっさと家に帰ればよかったのにと、ずっと後悔し続けていた。

しかし、悔やんでもしかたがない。
どうせこの後補習を受けることは避けられないのだから、もう覚悟を決めるしかない――そう思った良助の背後から、投げかけられる声。


「あれ、どうしたんだよ良助。先生と一緒なんて、もしかして補習か?」

嘘だろ――振り向いた先にいたのは友人たちと、よりにもよって綾香だった。

この状況、どっからどう見たって「今から俺、補習に行くんだけど何か用?」と言っているようなもんだろう。
だがしかし諦めるんじゃない良助、この状況を打破する言い訳を考えるんだ!

「ち、違う違う! 実は、先生が俺に手伝ってほしいことがあるから来てくれって言うからさー」

「いや手伝いが欲しいわけじゃ「いやいやいや先生大丈夫ですから! わざわざ先生の手いや口を煩わせるわけにはいきませんから俺が全部言いましたから! さ、行きましょ行きましょ!」

先生の背を押しつつ、友人たちの顔を見る。無理やりだったけど、どうだ。

「あー、そっか、先生の手伝い頑張れよー」

よし、何とか誤魔化せたか。結構危なかったけど、このまま行けば補習だっていうことはバレずに済みそうだ。ありがとう、意外と素直な友人たち! そしてよくやったぞ、俺!

「そ、それじゃあ!」

「おう、またなー」

良助が心の中でガッツポーズをしかけた時、去っていく友人たちの中で、一人だけ足を止めた存在があった。綾香――いわば、良助の好きな女子だ。

(高校ダイアリー2022冬号に続く)